鬼のパンツ

閉まりかけたマンションのエレベーター
入った瞬間フワッと
よい香りがした
香水は苦手だけれど
嫌味のない落ち着ける香り
エレベーターの奥を見ると
2人の女性がニコニコ顔
どうやら母娘らしい
声の調子も穏やかで
とても幸せそうで…
あっ、こんな家庭、
こんな母に憧れたなっと思っていると
自分の階に到着
「お先に」というと
「はい、どうも」と会釈が
ただそれだけで
優しい気分になれる不思議
帰宅が遅かったのか
母は寝起きの顔で
「おかえり」と
お土産にかってきたクッキーを嬉しそうに抱え
数百円で買ったという
モコモコパンツを見せながら
笑う
いい香りはしないし
洒落てもいないし
困ったこともたくさんあったけれど
これでいいんだ
これがいいんだ
何もいらないや
彼女の存在
それがあるだけで
何もいらない
ありがとね